何かとストレスの大きな現代社会、うつ病を煩う人も増えています。パートナーがうつ病になったために夫婦関係がうまくいかなくなるケースも多いようです。こうしたとき、パートナーがうつ病になったことを理由に離婚することはできるのでしょうか。詳しく考えていきたいと思います。

うつ病を理由に離婚できる?難しい?

パートナーがうつ病になり、症状が重いような場合は、パートナーと一緒に生活をすることがなかなか大変になると思います。パートナーを支えきれず、離婚したいと思うようになる方がいても不思議ではありません。

離婚するには、大きく分けて3つの方法があります。協議離婚、調停離婚、裁判離婚です。

協議離婚は、夫婦の協議により離婚を合意して離婚届を作成、提出することで離婚が成立する方法です。パートナーがうつ病であっても、離婚に向けた話し合いができる状態であれば、よく話し合って、離婚の合意ができれば、協議離婚の方法で離婚をすることができます。もっとも、重度のうつ病で意思疎通も難しいような場合は、この方法をとることはできません。

次に、調停離婚は、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、家庭裁判所の調停委員の関与の元で、離婚に向けた話し合いをし、合意ができれば、家庭裁判所によって合意内容をまとめた調停調書が作成され、これに基づいて離婚ができる方法です。これも本質は夫婦の話し合いですから、パートナーがうつ病であっても、調停の期日に出頭して話合いができる状態であれば、調停委員の関与の元でよく話し合って、合意ができれば調停調書ができ、離婚することができます。しかし、やはり重度のうつ病で意思疎通も難しいような場合は、調停による方法もとることができません。

協議や調停で合意ができないときは、最終的に裁判離婚の方法をとるしかありません。裁判離婚は、家庭裁判所に離婚訴訟を提起し、裁判所が、証拠により法定の離婚理由があると認めれば、相手方の意向にかかわらず、判決で離婚を命じることにより、離婚ができる方法です。

ここで法定の離婚理由として、民法770条1項に次の5つの理由が定められています。

  1. 配偶者に不貞な行為があったとき。
  2. 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
  3. 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
  4. 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
  5. その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

相手方がうつ病であるケースでは、④の精神病にかかっているときに該当しそうですが、法律は「強度の精神病」でありかつ「回復の見込みがない」場合に限り離婚理由としていますので、通常うつ病はそこまでの精神病と認められることは難しいでしょう。しかし、うつ病のために、⑤の「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認められる場合は、これを離婚理由として離婚が認められることになります。

うつ病で離婚できる条件

では、うつ病のために、⑤の「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認められるための条件はどのようなものでしょうか。

うつ病期間とサポート、関係継続が困難

うつ病を発症してから数年間も経ち、その間、パートナーとして、相手の療養や看病、通院の手伝い、精神的な支えなど、さまざまなサポートをしてきたのになかなか治らず、サポートをする側にもさまざまな困難が生じ、もうこれ以上、関係継続が困難になっているケースでは、「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認められる可能性があります。

収入が低下

うつ病が原因で仕事ができないなど、収入が減少し、配偶者の収入だけでは家計を維持できないような状態が続いているようなケースでも、「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認められる可能性があります。

子どもに影響が出た

うつ病が原因で、子どもに深刻な悪影響が懸念される場合、例えば、極端な例では子どもを巻き込んで無理心中を図るおそれがあるようなケースや、子どもが親のうつ病が自分のせいであると自責の念を強くして深刻に悩んでいるようなケースも「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認められる可能性があります。

離婚後の生活に影響がない

うつ病のパートナーと既に別居していて、離婚してもそれぞれの生活に影響がないケースでは、「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認められる可能性が高いといえます。

離婚後の慰謝料、親権、養育費はどうなる?

では、離婚が認められる場合、離婚後の慰謝料、子の親権、養育費はどうなるでしょうか。

慰謝料

相手方のうつ病を理由に離婚が認められる場合、慰謝料の請求は難しい場合が多いです。慰謝料が請求できるのは、不貞や暴力など、離婚の原因が不法行為と言える場合に限られます。しかしうつ病それ自体は、そうした不法行為とは言えませんので、慰謝料が発生する根拠がないからです。

親権

未成年の子どもがいる夫婦が離婚するには、子どもの親権者をどちらにするかを決める必要がありますが、合意で決まらなければ、最終的には裁判所が親権者を決めることになります。その際には、これまでの子どもの監護実績や、今後の監護環境などを総合的に見て判断することになりますが、うつ病により子どもの監護が難しくなっているような場合は、親権者として認められるのは難しいでしょう。

養育費

子どもの養育費は、双方の収入、子どもの人数、年齢などに基づき基準によって決まるのですが、うつ病によって働けない場合は、収入がゼロですので、そのような方に養育費を求めることは難しいでしょう。

まとめ

離婚は通常でも精神的な負担が大きな問題です。それにうつ病の事情が関係すると、さまざまなデリケートな問題も生じ、慎重に進めなければ、取り返しの付かない事態に発展する可能性もあります。そうした場合は、ぜひ専門家である弁護士にご相談頂き、サポートを求めて頂ければと思います。